S/S2024 『IF WE BREAK DOWN THE WALLS』
――SEVESKIGおよび(un)decidedのデザイナー・長野剛識が2024SSのタイトルとして掲げた言葉は、
日に日に混迷の様相を深める戦争を巡る彼の思考が、より純粋でストレートなものへと変化したことを端的に示している。
「同民族間で起こる争いや分断。物理的・心理的な多くの障壁。
もしそれらを取り払うことができたならば、その先に光が見えてくるのではないでしょうか?」
預言や神話、都市伝説といった土着の信仰を常に創作の着想源としてきた長野は、スラヴ民族の伝承や神話に辿り着く。
そしてギャザーやシャーリング、花の刺繍やクロスステッチなど、スラヴの伝統的な民族衣装に見られるディテールを
自身のオリジンであるアメカジと結びつけていった。
たとえば争いによって傷ついた人々の心象風景は、レーザーカットでボロボロに穴の開けられたデニム、
表面の顔料が薬品で剝がされたレザーやクラックレザーのライダースジャケットと、グランジ調のアイテムに昇華されている。
破れた生地を修復するように散りばめられた花の刺繍のひとつひとつは、彼の祈りの言葉に等しい。
AIとの対話によって現実と虚構の境界線を探求することも、ブランドにとっては欠かせないデザインの手法となっている。
Midjourneyを用いた花の画像生成に加え、ChatGPTによるミスリードも敢えてそのまま取り込んだ。
「トラの頭を持った神」や「赤い豹の毛皮を着た魔女」など、AIによってもっともらしく語られる架空の神々の姿が、
nipoalohaとのコラボレーションによるトラ柄のアロハシャツ、
TOLQとのコラボレーションによるヒョウ柄を転写したコーチジャケットやスカジャンなどを通して具象化されている。
ボーダー柄やストライプ柄のアイテムは人と人とを分断する壁や境界線のメタファーとして機能しているが、
赤・青・白からなる汎スラブ色のボーダー柄が解れてフリンジ状になったニット、
あるいは“NO BORDER NO HUMAN”という皮肉なフレーズすらもボーダー柄とともに掠れて消えていく今治タオルセットアップは、
長野が本コレクションに込めた力強いメッセージそのものと言える。
なお、今シーズンはアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』ともコラボレーションを行い、プリントTシャツなどを制作。
作中に登場するバリア「A.T.フィールド(Absolute Terror Field)」をイメージして開発した、ナイロン扁平糸を編み上げた
バリアのような素材などもランウェイショーに登場する。